潜在保育士の受け皿確保 | 人材不足時代に園ができる実践的な取り組み

保育士不足が続く中、注目されているのが「潜在保育士」の存在です。
資格を持ちながら現場を離れている人は全国で約110万人。その多くが「条件さえ合えば働きたい」と考えています。採用難に悩む園にとって、潜在保育士を受け入れる体制=受け皿を整えることは、園運営を安定させる大きな鍵となります。
本記事では、潜在保育士の現状や復職を妨げる要因、園が取り組むべき具体的な施策を解説します。
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潜在保育士とは?現場復帰が期待される存在

潜在保育士の定義と人数の現状
潜在保育士とは、保育士資格を持ちながらも保育施設で働いていない人を指します。取得した資格を一度も活かしていない人や、出産・育児・転職などを理由に現場を離れた人が含まれます。
こども家庭庁の調査によれば、保育士登録者約179万人のうち約111万人(約62%)が潜在保育士とされています。つまり、資格を持ちながらも半数以上が「潜在」状態にあるのが現実です。
2018年の野村総合研究所調査では、回答者の67.1%が潜在保育士であり、そのうちの60.5%が「条件さえ合えば復職したい」と答えました。環境を整えれば数十万人単位で現場に戻る可能性があることから、保育士不足解消の切り札と見なされています。
潜在保育士が現場に戻らない主な理由
しかし、実際には多くの潜在保育士が復職に踏み切れていません。その理由は多岐にわたります。
給与水準の低さ:全国平均年収は約396万円と、他業種に比べて低め
人間関係やハラスメント:退職理由の第1位は「職場の人間関係」
業務量と労働時間:行事準備や持ち帰り仕事が大きな負担
子育てとの両立の難しさ:シフトや急な残業が壁になる
体力的な不安:年齢や体調による負担感が復職を妨げる
ブランクへの不安:最新の保育動向やスキルに追いつけない不安
こうした要因が複合的に重なり、「やりたい気持ちはあるが条件が合わない」というジレンマを生み出しています。
潜在保育士の復職意向と期待
一方で、復職への意欲を持つ人も少なくありません。東京都福祉局の調査では、保育経験のある潜在保育士の59.0%が「条件が合えば復職したい」と回答。保育経験がない人の方がむしろ就業意向は高く、63.2%が「資格を活かして働きたい」と答えています。
復職希望条件としては、勤務時間や通勤時間の柔軟さ、給与の改善が上位に挙げられました。つまり、「働きやすさ」が復職の最大のカギであることが見えてきます。
ブランクがあっても復職できる理由
潜在保育士にとって不安材料の一つがブランクですが、現場は人手不足のため「経験者であること」自体が大きな価値になります。
基本的な保育の流れや子どもの発達理解は、ブランクがあっても大きく変わらない
社会人経験や他業種で培ったスキルも、保護者対応や事務作業に活かせる
「意欲がある」ことを示せば十分評価されるケースがある
このため、ブランクを過度に不安視する必要はありません。
政府・自治体による支援策
潜在保育士の復職を後押しするため、国や自治体ではさまざまな支援策を整えています。
保育人材・保育所支援センター:再就職相談や求人紹介、職場見学
就職準備金貸付事業:最大40万円を無利子貸付、2年以上勤務で返還免除
保育料貸付事業:未就学児の保育料を支援、一定条件で免除
復職支援研修・セミナー:最新の制度や実務スキルを学べる講座
これらを活用すれば、不安を解消しながら復職準備を進められます。
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潜在保育士が復帰しやすい受け皿の必要性

人材不足が続く保育業界の背景

日本社会は少子化が進んでいるにもかかわらず、共働き世帯の増加によって保育需要はむしろ拡大しています。厚生労働省の統計によると、保育所や認定こども園の利用児童数はここ10年で右肩上がりに増加。待機児童数自体は減少傾向にあるものの、これは新規園の開設や定員拡大によるものであり、裏を返せばそれだけ現場で必要とされる保育士数も増えていることを意味します。
しかし、人材供給は需要に追いついていません。厚労省の最新データでは、保育士の有効求人倍率は全国平均の約3倍。これは看護師や介護職と並んで突出して高く、慢性的な人材不足を示す象徴的な数字です。結果として「施設はあるのに保育士が足りない」という逆転現象が全国で発生しています。
保育園運営に与える影響とリスク
保育士不足は単なる「人手不足」ではなく、園運営そのものを揺るがす深刻なリスクを伴います。
- 定員を満たせず経営悪化:配置基準を満たせないと園児の受け入れを制限せざるを得ず、収益性が低下
- 現場保育士の負担増:一人あたりの業務量が過剰になり、結果的に離職率が高まる悪循環
- 保護者からの信頼低下:職員不足が子どもの安全や保育の質に直結し、園全体の評価が下がる
特に、配置基準を満たせない状態が続けば、自治体から指導や改善命令を受ける可能性もあります。場合によっては新規園児の受け入れ停止や認可取り消しといった園の存続に直結する事態も起こり得ます。
潜在保育士活用が採用コスト削減につながる理由
こうした中で注目されるのが「潜在保育士」の存在です。彼らはすでに資格を保有しているため、ゼロから採用・育成するよりも短期間で即戦力化が期待できるという強みがあります。
新規採用の場合、求人広告費や人材紹介料、採用イベント参加費など、1人あたり数十万円規模のコストが発生します。さらに、未経験者や新卒であれば研修やOJTに時間と費用を割く必要があります。
一方、潜在保育士を対象に「復職支援研修」や「短時間勤務制度」といった受け皿を整備すれば、採用コストを削減しつつ定着率を高められるのです。特にブランクのある人に合わせた教育体制や柔軟なシフト制度は、復帰への心理的ハードルを下げる効果が大きいといわれています。
つまり、潜在保育士の活用は単なる「人手確保」にとどまらず、園の採用戦略として費用対効果の高いアプローチといえるでしょう。
事業者が取り組むべき受け皿確保の具体策

柔軟な勤務形態(短時間勤務・固定シフト)の導入
潜在保育士の多くは「働きたい気持ちはあるが、生活や家庭との両立が難しい」と考えています。NRIの調査によると、潜在保育士の54.2%が勤務時間や日数の柔軟性を重視していると回答。
具体的には、以下のような工夫が有効です。
- 短時間勤務枠:1日3〜4時間だけ働けるシフトを用意
- 曜日固定勤務:土日休みや週3勤務など選べる契約社員制度
- 時間帯特化勤務:夕方や早朝など特定の時間のみの固定シフト
これにより、子育てや介護と両立したい人や体力面に不安のある人でも安心して復職できます。保育業界では「フルタイム一択」のイメージが根強いですが、短時間や柔軟シフトを認めるだけで、潜在保育士が戻りやすくなるのです。
保育補助やパートからのステップアップ制度
「いきなり正社員復帰」はハードルが高いと感じる潜在保育士は少なくありません。そのため、段階的な働き方を設けることが重要です。
- 保育補助:書類業務や清掃、見守りなどからスタート
- パート勤務:週数日、短時間で子どもと関わる仕事へ拡大
- 正規職員:慣れてから本格的に担任や運営に関与
この「ステップアップ型の仕組み」があることで、ブランクを不安視する潜在保育士も安心して一歩を踏み出せます。園にとっても、長期的に定着する人材を育てやすくなるメリットがあります。
復帰支援研修・スキルアップ研修の実施
潜在保育士が復帰をためらう大きな理由の一つは「ブランクによる不安」です。現場は日々進化しており、最新の制度やICTツールの導入に追いつけるか心配する声が多く聞かれます。
そこで、園側が研修やサポート体制を整えることが効果的です。
- 最新の保育指針や安全管理の研修
- ICTツール(連絡アプリや保育記録システム)の操作講習
- 先輩保育士によるOJTやメンター制度
これらを組み合わせれば、復職に不安を感じる保育士も「学び直せる環境がある」と安心できます。国も処遇改善やキャリアアップ研修に補助金を出しているため、事業者にとっても導入しやすい仕組みです。
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子育て中でも働きやすい福利厚生の整備
家庭と両立できる制度を整えることは、潜在保育士が「戻りたい」と思えるかどうかの大きな分かれ道です。
- 自分の子どもを勤務園に優先的に預けられる制度
- 病児保育・病後児保育との提携
- 時短正社員制度
これらは短期的な採用効果だけでなく、長期的な定着率にもつながります。実際、福利厚生の充実度は求人情報を見たときの印象を大きく左右する要素です。
国や自治体の取り組みと連動した受け皿づくり
「保育士不足の5つの原因」(低賃金・業務量・不規則勤務・人間関係・責任の重さ)を背景に、国も処遇改善等加算・宿舎借り上げ支援・キャリアアップ制度などの施策を展開しています。
事業者がこれらの支援制度を積極的に活用し、園独自の柔軟なシフトや研修体制と組み合わせることで、潜在保育士にとって魅力的な受け皿を実現できます。
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成功事例から学ぶ潜在保育士活用のポイント

小規模保育園における柔軟シフト活用例
ある小規模園では、思い切って「週2日・午前のみ勤務」といった限定的な働き方を認めました。その結果、子育て中の潜在保育士が複数名復帰。
- 常勤保育士の残業時間が大幅に削減
- 急な欠勤時もカバーしやすくなり、チーム全体の余裕が増加
- 子育て世代の保育士が「無理なく働ける園」として口コミが広まり、採用力も向上
この事例からわかるのは、「短時間でもいいから働ける枠を設けること」が、潜在保育士の復職を後押しするカギになるという点です。園側にとっても人員が厚くなることで業務効率や定着率の改善につながります。
地域ぐるみでの受け皿づくり(自治体・園の連携)
茨城県が導入した「いばらき保育人材バンク」は、潜在保育士と園をマッチングする仕組みを行政が担う全国的にも注目の事例です。
- 行政が仲介することで、給与・勤務時間・勤務地などの条件調整がスムーズ
- 潜在保育士側は「安心して応募できる」、園側は「必要な人材に出会いやすい」というメリット
- 導入後はミスマッチによる短期離職が減少し、復職率が大幅に改善
このように自治体・園・潜在保育士の三者を結びつける仕組みは、単なる求人広告以上の効果を発揮します。他地域でも同様の取り組みが広がりつつあり、今後のモデルケースとなるでしょう。
職場環境改善で復職者が増えた事例
ある認可保育園では、ハード面の条件改善だけではなく「人間関係の改善」に注力しました。
- 定期的な1on1面談を導入し、職員が安心して本音を話せる場を確保
- 相談窓口の設置でハラスメントや人間関係トラブルを未然に防止
- 結果として「以前は辞めたけれど、もう一度働きたい」と思う元職員の復帰が実現
給与や勤務時間の改善だけでなく、心理的安全性を確保することが潜在保育士の復職に直結することを示した好例です。
事例から見える共通の成功要因
これらの事例に共通するのは、以下のポイントです。
- 柔軟性のある勤務制度:フルタイム以外の選択肢を提示
- 第三者を交えたマッチングや調整:行政や外部団体との連携
- 働きやすい人間関係づくり:心理的安全性の確保
つまり、「条件面+環境面+仕組み面」の3つを整えることが、潜在保育士の復職を後押しする鍵になります。
受け皿確保における課題と今後の展望
制度的な制約と事業者ができる工夫
潜在保育士の復職を後押しするには、国や自治体の施策だけに頼るのではなく、園独自の柔軟な工夫が不可欠です。実際に現場からは「制度はありがたいが、目の前の働き方が変わらなければ復職は難しい」という声も多く聞かれます。
- 固定曜日の休み制度:家庭の予定を立てやすくなり、子育てや介護との両立が可能に
- 担任を持たない勤務形態:書類や行事負担が少なく、補助的な立場から復帰できる
- 時短正社員の活用:待遇を保ちながら勤務時間を短縮
こうした「ちょっとした柔軟性」が、潜在保育士にとっては大きな安心材料になります。
2025年問題と保育士不足の加速
近年は少子化が進む一方で、共働き世帯の増加により保育需要は依然として高い水準を維持しています。そこに追い打ちをかけるのが「2025年問題」です。団塊世代が後期高齢者となり、介護と育児のダブル負担を抱える家庭が急増すると見込まれています。
この影響で、
- 働き手世代の保育士が離職するリスクが高まる
- 保護者側の支援ニーズも拡大する
- 保育需要は増えるのに供給側の人材がさらに減少
といった深刻な悪循環に陥る可能性があります。
今のうちに潜在保育士を掘り起こす仕組みを整えなければ、2025年以降の保育現場は一層の人材不足に直面するでしょう。
DXやICT活用で支援できる可能性
潜在保育士の復職を阻む大きな要因のひとつが「業務過多のイメージ」です。この不安を和らげるには、デジタルツールによる業務効率化が不可欠です。
- 連絡帳のデジタル化:アプリを使えば入力が簡略化され、保護者とのやり取りもスムーズに
- 勤怠管理のクラウド化:残業やシフト調整が自動化され、管理コストが削減
- オンライン面談の導入:保護者対応の負担を軽減し、時間の有効活用が可能
ICT活用は、現役保育士の負担軽減だけでなく、潜在保育士が抱く「現場は忙しすぎるのでは?」という不安を払拭する材料にもなります。特に若い世代の潜在保育士にとっては、ICT導入が「復職を決める後押し」となるケースも増えています。
保育士採用・復職支援の情報なら「ほいくのイロハ」へ

潜在保育士の活用は、園運営の安定と保育の質を守るために欠かせません。しかし、制度や支援策が多岐にわたるため「自園では何から始めればいいのか」「復職に向けてどんな準備が必要か」と迷う方も多いのではないでしょうか。
ほいくのイロハでは、
- 潜在保育士の復職支援策や働きやすい園づくりのヒント
- 保育士向けのキャリア情報や現場で役立つノウハウ
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などをわかりやすく発信しています。
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まとめ
保育士不足が続く今、鍵を握るのは「潜在保育士の復職」です。全国で100万人以上いるとされる潜在保育士のうち、約6割は「条件が整えば戻りたい」と考えています。つまり、園側が適切な受け皿を整備できるかどうかが、採用力と運営の安定を左右します。
- 柔軟な勤務形態(短時間勤務・固定シフトなど)
- 段階的な働き方(保育補助からのステップアップ制度)
- 復帰支援研修・OJTによる不安解消
- 子育てと両立できる福利厚生
- 心理的安全性の確保
これらはどれも大掛かりな改革ではなく、園が独自に工夫できる取り組みです。加えて、ICT導入や自治体との連携を進めれば、採用コスト削減にもつながり、持続的に人材を確保できるでしょう。
2025年問題により人材不足がさらに深刻化することが予測される中、潜在保育士の掘り起こしは「未来の園経営を守る最重要施策」と言えます。園も潜在保育士も、安心して働き続けられる仕組みを今から整えていくことが、これからの保育業界の大きなテーマとなるでしょう。
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